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小妖精の唄

◆木霊の日記帳 招待状
+In月刃邸 玄関前

「なぁ木霊、ホンっトーに目的地ここな訳?」
「貰った地図にはそう書いてあるんだけど…話に聞くよりよっぽどインパクトあるわ;」
「…木霊、嫌な予感 する…」
「奇遇だねタニア、私もそうだけどそうも言ってられないのがオトナってもんだ」
「…帰りてぇ」

 光の差さない、植物がみっしりと群生した一角を目前に見据え、呆然と佇む4人+1匹。
 体力なし、根性なしのないないづくしのマスター木霊(愚・♀?)
 無口で素直、静かに輝く陽光、エターニア(光・♂)
 元気溢れる自信過剰、飛んでいく姿は銀色の彗星、夜羽(光・♂)
 唯我独尊、自分が法律、毒舌司令塔、駄天使ことメフィア(闇・♂)
 下っ端精霊獣、明日を夢見る毛玉天使、アズ・リーア(♂?)

 木霊の手に握られた地図には確かにここの場所が赤いマルで記されている。
 添えられていたカードには簡単な手紙と「お待ちしております」の文字。
 普段懇意にしているお方のお宅に訪問できると楽しみにしていた一行だが、話に聞くよりも濃密な空気に押され、中に入ることが出来ないでいる。

「だ、誰が最初に行く? 夜羽クンちょっと様子見てきてくれない?」
「ぜ、ぜってー嫌だ! 何か出るっているってヤバイってここっ!」
「じゃー…タニア?」
「…ここの空気、良くない。…嫌だ」
「め、メフィア〜」
「てめぇが行け! 襲われようが食われようが俺じゃなければ問題ない」
「…アズ君〜」
「…きゅーん」

 …そろいも揃って微妙に根性のないパーティである。
 そんな感じのやり取りを30分弱ほども続けた辺りだろうか、不意に森(としか形容しようのない)の一角が音を立てて破壊され、銀色の髪のピクシーが飛び出してきた。
 柘榴石のような鋭く赤い瞳、頬に走る赤い紋様、身の丈ほどもある大剣を振り回してうねうねと蠢く植物(!)の動きを止め、かわし、断ち切っていく。
 その姿はまさに剣舞とも思えるほど滑らかで、いくらもしない内に蠢く植物の動きは大人しくなっていった。
 
「すげぇ! 何アレカッコイイっ!」
 紫水晶の瞳をキラキラと輝かせながら興奮しているのは夜羽。
「…いつか、私も」
 何か決意を固めて拳を握るタニア。
「…ふん」
 高みの見物を決め込むメフィア。

 あらかた植物を叩きのめしたそのピクシーは植物が復活してこないのを確認してこちらに近づいてきた。あれほどの戦いの疲れは微塵も感じさせない、静かな泉のような声で話しかけてくる。

「…マスター月刃の命で迎えに来た。ヨアだ。遅くなったな」
「すいません、入る場所わかんなくって。お迎えありがとうですヨアさん」

 ぺこぺこと頭を下げる木霊。

「気にするな。大抵の訪問客は迷うからな。郵便も、中々来ないのだ」
 若干遠い目をしながら話してくれるヨア氏。「あぁ、やっぱり」と心の中で呟く木霊一行。
「えっと、初めまして。マスターの木霊です。お話は月刃さんから良く伺ってます♪
 んでもって、こっちの金髪がエターニア、銀髪のちまい方が夜羽、根性悪いのがメフィア、んでもってこの毛玉はアズです。」
「ちょっと待て木霊、誰が根性悪だって?」
「ちまいって言うなよ! メフィアと大して変わんねーじゃねぇかっ!」
「わんっ、わんわんっ!」

 紹介の仕方がマズかったのか二人と一匹に揃って突っ込まれる木霊。
 自業自得ですが、ヨアさんついていけなくて所在なさげにしてますよ。

「とりあえず。月刃さんの招きに応じて参上いたしました。案内よろしくお願いします」
 散々ボコられた頭を改めて下げる木霊。つられて何となく頭をさげるタニア。
「分かった。復活しないうちに家に案内する。はぐれても責任は負いかねるのではぐれないように付いてきて欲しい。いつでも戦闘体制に移行できるようにしておくことを勧める。油断は禁物だ」
「…だって、油断すんなよメフィア」
「は、オレを誰だと思ってやがる。その言葉後悔させてやるぜ」
「…負けない」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる3人を見ていたヨアがふ、と笑う。
「その意気だ3人とも…行くぞ!」
 鋭さを増した赤い瞳の号令で、一斉に飛び出す4人のピクシーたち。
 木霊は遅れないようについていくのみ、ちなみに精霊獣のアズは木霊に抱えられている。
 瘴気が彼の肌に合わないらしく、白い耳と尻尾がぺたりと力なくたれている。

+In月刃邸 前庭

「てやぁっ! なんでこんな所に家なんか建てられんだ…よっ!」
 蛇のようにうねるツタを見事な回し蹴りでふっ飛ばしながら夜羽がぼやく。
「…ふざけやがってっ! これでも喰らって大人しくしやがれっ!!」
 剃刀のように飛来した木の葉をくらい。逆上して残像が見えるほどの速度で切り込むエターニア。
「ふふ…はははっ…。…壊してやるよ…全部、全部だ…」
 細められた紫の瞳、薄く笑みの形に割れた唇から呪いが吐き出される。絡みつこうと蠢く枝にメフィアが手を触れると接点からぼろりと腐食を始め、崩れ落ちていく。
「…信じられん。メフィアとか言ったな。お前、魔界の生き物か何かか?」
 声音に驚きを滲ませてヨアが呟く。
「は? 知らねぇよ。俺は俺だ。くだらねぇ事ヌかす時間があるならとっとと案内しやがれ」
 初対面の相手だろうがなんだろうが絶対零度の対応をするメフィア。その間も飛来する木の葉や枝が彼の手に触れるやいなや変色し、自重を支えきれずに崩れ落ちていく。
「あぁ、もうすぐだ。私も先行するが、傷を目印にすればいいだろう」
「傷って…アタシには何がなんだか良くわかんないんだけど」
 金属の翅を持ったトンボをやっとスケッチブックで叩き落とした木霊が眉をひそめる。
 ずっと木霊はヨアに護られながら進んできたのだ。羨ましいというかなんというか…
 それよりもそのスケブ、商売道具だったはず。なんかボロボロになってるけど…
「俺も見えん。夜羽! 目印は見えるな? その銀髪と先行して行く先を決めろ! タニアは木霊と毛玉についていろ!前に出すぎるな!」
 指示をだすメフィア。その声に夜羽とタニアが反応する。

「おっしゃぁっ! 皆オレについてこいよっ!」
 夜羽が飛び出す。その手に光の精霊力が凝固し、一本の剣を形作る。
 きらきらと光の軌跡をこぼすその剣を携え、飛び出したヨアに追随する形で鬱蒼とした樹木の壁に突進していく。
「右から来るぞ! これを抜ければもうすぐ自宅だ」
 遅いかかる茨の枝を手にした大剣で受け止め、夜羽のカバーにはいるヨア。
 ほらほら木霊。見とれてないでちゃんと走ってください。もっと見ていたい気持ちは分かりますけどね。

「…アズに指一本でも触れたら根元から切り落としてやるっ!」
 後退して来たエターニアが今まで木霊の近辺を守っていたヨアと交代する。
 木霊は比較的どうでもいいらしい。アズは木霊の肩にしがみついているので、結果的に木霊も守ってもらうことになるのだが…。

「…うざってぇ。…終わらせてやる。植物だろうが何だろうが後悔させてやるぜ」
 掲げた両手に闇の精霊力をまとい、あまつさえ漂う瘴気も取り込んで力を精錬するメフィア。
 集められた力は彼の両手でうねり、空気を震わせて細く、微かな曲を奏でる。メフィアの唇からも細く軋る様な旋律が零れ、木霊の耳にも、夜羽達ピクシーにも聞き取れない言葉を大気に充満させる。
「夜羽、タニア。それから銀色の! 死にたくなければ避けろっ!」
 目前に立ちはだかる植物の壁に向けて集めた力を放つメフィア。その力の塊に触れた植物は彼の手に触れられた時と同様、腐食を始め、さらりとした土に還って行く。
 分厚い樹木の壁を紙のようにぶちやぶり、今だ威力衰えぬその力の塊の先には蠢く妖しげな植物が可愛らしく思えるほど妖しげな尖塔をもつ家…というよりは、城と呼ぶべきな建造物。

「メフィアっ、ストップストップ! ぶつかるよっ!」
「いいじゃねぇか! ついでにスッキリさせてやるぜ」
「招待先を壊してどうするこのバカ者〜っ!」
 慌てて静止する木霊と耳を貸さないメフィア。
「メフィア!家の前に誰かいるよっ! ぶつかっちゃうっ!」
「何っ!?」
 切羽詰った夜羽の叫びにヨアに動揺が走る。
「ばーか。ンな時に出てくる方が悪ぃんだよ!」
「あんなのぶつかったら屋内だろうが屋外だろうが大差なく逝けるわーっ!」
 メフィアの作り上げた力の奔流が木霊の叫びも虚しく建物に接近していく。
 皆が脳裏に激突の瞬間を夢想した時。家の前に佇む小さな影の前で不意に力の塊は軌道を変え、霧散した。

+In月刃邸 玄関先

「あぁ、騒がしいと思って様子を見に来ましたら…なんという事でしょう…」
 はらはらと涙を流した女性ピクシーが泣き崩れている。
「えーと…申し訳ないス。でもしのぶちゃんに怪我が無くて良かったというかなんと言うか…」
「このくらいで私はくじけませんわ! いずれまたこの庭を再建してみせますっ!」
 元は謎の植物であった土を握り締めて、黄金色の瞳を潤ませるその姿は思わずこちらももらい泣きをしてしまいそうなほど儚げで…。
「え、えーと。ハイ、そースね; 頑張ってクダサイ」
 あ、あれ? なんだか動きがカクカクしてるんですけど木霊さん。何かありました?

「…さすがしのぶ姐だよな。アレを片手でぺちっ、だぜ。」
「怒らせないほうがいい?」
「あぁ、気をつけろよ…。マジで地獄が見れるからな。」
 水色の髪の少年ピクシー。カナイと夜羽が青い顔でこそこそと会話を交わしている。
「怒らせたしのぶにかなう者はそうは居ないと思う。気をつけたほうがいい。」
 ヨアも若干青い顔で話の輪に加わる。
「メフィアも凶暴だけど年中キレてるからあんまり怖いとか思わないんだよな〜。」
「それよりもあの力は何なのだ。しのぶの魔界植物をあぁもあっさりと滅ぼせるとは…」
「恨まれるぜアイツ、しのぶ姐に…。夜羽って言ったっけ。気をつけるように言っておけよ。」
「気をつけたら何とかなるものなの?」
「いや、なんねー。」
「…意味ないじゃん。」
 四人のピクシーが丸くなってぼそぼそと小声で情報交換をし合っている。
 発言の無いピクシーはエターニア、話を振られないと発言しないけれども話は聞いているらしい。

「クソっ! まさか消滅させられるとは思ってなかったぜ。」
 銀色の長い髪をしきりに梳きながらメフィアが毒づく。目一杯キアイを入れた彼の必殺技をしのぶに片手で消滅させられ、いたくプライドが傷ついているらしい。
「いやまぁ、しのぶちゃんはなんていうか特別だから…。気にしないで。」
 延々と愚痴り続けるメフィアの手の動きにあわせてきらきらと流れる銀糸を愛でているのはしのぶ、カナイ、ヨア氏三人のピクシーのマスター。月刃氏である。

「と、取りあえずデスネ。なんだかこーなるのは予想してたような想定外というか。
 お招きに預かり参上しました。メフィア、夜羽、タニアのマスターの木霊です。」

 どうにかこうにか人様の家に必殺技をぶち込んだショックと、あまつさえそれを片手でぺちんっとはたき返されたショック双方から立ち直りかけた木霊がさっくりと挨拶をする。
 微妙に目が虚ろというか、遠くを見ているのは気のせいだと思います。

「あぁ、でもこの土…いい植物が育ちそうですわ。」

 さらさらと土の感触を確かめていたしのぶの唐突な呟きと微笑みに凍りつく一同。

「えっと、取りあえず中へ。お茶淹れますねっ。あは、あはははは…」
「あははははは、お邪魔しまーす♪」

 二人のマスターはしのぶの発言を聞かなかった事にした。
 その後、銀髪3兄弟(ヨア、夜羽、メフィア)の写真を撮りまくったり、昼寝モードに入ったカナイと夜羽の寝顔にきゃっきゃしたり、ヨアとタニアが剣の特訓をしたり、しのぶが作ると言い張った夕飯を全力で止めたりといった話は、またいつか。
 機会と命がありましたら…。
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