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小妖精の唄

◆木霊の日記帳 ほっとけないのさ。
家に引きこもって数日。
散歩しながら少しずつ精霊の水晶を拾い集めたりひたすらゲームをやり込んだりするのにも飽きた木霊は一大決心をしてパソコンをネットに繋げてみた。
メールソフトを立ち上げる。 ほんの少しの期待と、無関心を装って。
大半はダイレクトメール。件名を確認するだけで即座に抹消する。いくつかの作業依頼はとりあえず放置。友人達からの近況報告もまた無視。
「やっぱ、そんなうまく行くわけは・・・」
呟きかけた木霊の声を遮るかのように小さく鳴るメールの着信音。その件名に記されていた懐かしい名前に息が止まりそうになった。

「あはは、夜羽クン・・・元気でいるんだ。・・・よかったぁ」

メールを読んだ木霊が穴のあいた風船のようにテーブルに突っ伏した。すぐさま迎えに行く旨を伝えて返信する。
ゆっくりと時間が流れていた家がにわかに慌しくなった。
「えぇと、迎えにいかなきゃ・・・。保存食は・・・あぁうっ、買い置きがないじゃない。あ、はいはいメール・・・。○日後・・・それまでにキャラバン行かなきゃ」
それなりに片付いていた部屋がものの数十分で混沌の海と化し、足の踏み場もないほどになった。その海を踏み越えて右へ左へと走り回って荷物をまとめる木霊。
たまに立ち止まってメールをチェックする。親しいマスターに連絡を入れたり、もし見かけたらすぐに知らせて欲しいとお願いをする。
「はわわわわ、協力してくださるだなんてそんな恐れ多い・・・ありがとうございます〜」
画面に向かってぺこぺこと頭を下げる。そんな事をしても分からないと思うが人間の習性だろう。
そんなこんなで大騒ぎしながら木霊は家を飛び出した。

途中で寄ったキャラバンで買い込めるだけのアイテム、食料を買い込んで指定場所に向かった。だけどそこには何もなく、ただ風が吹きすぎるだけの場所。
「間違った・・・わけじゃない、よね?」
一通り捜索した後、不安に思う木霊にメールの着信音。とあるマスターからのメールに示されていた場所はここではない。歩いていけば数日かかる場所が書かれていた。
「遠い・・・。勿体無いけど夜羽クンのためだもの。」
ポーチから取り出したのは遠い距離の移動を便利にするアイテム。込められた力が解放され、大きな風が渦を巻いた。

「・・・。何やってんの?」
気がついた木霊は目の前にいる懐かしい小妖精の顔をぼぅっと見つめていた。まばらな木漏れ日を受けた彼がカクンと首をかしげ、さらりとした銀髪が揺れた。
不思議に思ったときのクセだ。
「なぁ、その格好。しんどくない? ちゃんと降りたほうがいいと思うよ」
聴きなれた声にゆっくりと自分の身体を見回す。どうやら木の枝にひっかかっているみたいだ。動こうと少し身体を動かしたとたんに鈍い嫌な音と浮遊感がした。
「ほぇ? わ、わわわっ!?」
めきめきっ、ずざざざざっ。
「った〜っ! ・・・腰、打ったぁ。」
ナサケない悲鳴をあげる木霊の目の前に彼がひらりと舞い降りてきた。夜闇色のふわりとした羽根が軽い羽音を立てている。
「おーい、生きてる?」
「・・・生きてない」
「・・・。・・・元気じゃん」
痛む腰をさすりながらゆっくりと視線を上げていく木霊。目の端に水珠が浮かんでいるのは痛みのためだろうか。
「どうかした? オレの顔、なんか付いてる? それとも何かヘンな事言った?」
紫色の瞳と目があった。いくつもの水珠が頬を滑り落ちていく。
「えへへへ。・・・ねぇ、また一緒について来てくれない?」
零れ落ちる水滴を拭おうともせずに木霊は目一杯の笑顔を浮かべた。両手を彼に向かって差し出す。
紫色の瞳の片方がすぅっと閉じられ、彼は銀色の頭を少し掻いた。そのままくるりと背を向けて飛んでいく。
「あ、ちょっと待ってっ! やっぱダメ?」
あわてて呼び止める木霊の声にくるりと振り向いた彼は人差し指をピンと立てて宣言した。
「仕方ナイなぁ。付き合ってあげるよ、頼りないしね」

たくさんの感謝の気持ちを メールに乗せて飛ばした一日だった。

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